パネル展示を考える
博物館のキュレーションの最も簡単なものとして、パネル展示を考えてみよう。製作メモ(その12)で「イメージを四角いフレームで切り取ってみよう。」に書いたように、パネル展示は仮想空間でも博物館・美術館で最もよく見かける。実際、SLには額を壁に飾っただけのアートギャラリーが実に多い。
現実世界の美術館でも展示されているのは絵画だけでなく彫刻もあるし、博物館では模型やはく製(3D)と説明パネル(2D)が混在している。製作メモ(その4)では、バーチャル博物館はフィールドそのものを博物館にしてしまうとも書いた。だから仮想空間でパネル展示のみの博物館を作るというのはある意味敗北なのだろうか?
3D空間なのにパネル展示が多いのは、1プリムで1テクスをアップすればできてしまう手軽さ以外に、もしかすると人間はイメージを捉えるインタフェースとして額縁や窓やモニターが一番馴染んでいるのかもしれない。例えば、ボロックの絵は床に置いてペンキを垂らしているくせに、やはり壁に飾りたいらしい。現実世界では、絵を壁に飾れば、鼻がくっつく一歩手前まで接近できるし、すると小さな絵でも展示できる利点もあるだろう。
一方、案内矢印やエリアの名称などは、仮想空間ではむしろ床に表示する方が確実に見付けてもらえる。現実世界の博物館のように、エリアの名称を天井近くに表示したいところだが、仮想空間ではそうすると、近づくにつれて視界の外になってしまう。そういう点では、床表示をもっと活用してもよいと思う(最初のSS。床置き表示の例)
(展示空間)
現実にありそうな建物の中に展示するのは私はお勧めしない。例えば絵画がルネサンス時代のものならルネサンス時代の建物の中に飾るというのは、もっともらしい着想ではあるが・・・。
ただ少なくともパネルを飾る壁があった方がよさそうだ。それは背景を遮断して絵の世界に没入できるうようにするためだ。絵の色彩が影響されないように、壁はまぶしくない程度の白がいいのかもしれない。
問題は壁のどの高さに絵画を展示するかだ。SL内の美術館はどうやらキュレーターがイラストレーターなのか、おそらく通常のHDモニタ(1920x1080)よりも縦方向が大きい1600x1200のモニタを使っているのではないだろうか(もとちゃさんがそうだった)。それで作られた展示は、訪問者からすると、飛行モードにするかカメラを上に振らないと全部が見えないことになる。これは気をつけた方がいい。
通路とフロアをどうするかはキュレーションそのものである。ここは機能(関連付け)を優先して(モダニズム建築)、その場で自由に配置していけば、思わぬ機能美が生まれてくるかもしれない(製作メモ(その4)と(その12)と(その13)を参照)
ズームアウトすると展示の全体が見える方がよいと私は思っている。仮想空間は視野が狭く、方向感覚も悪い。天井も壁も外側からは透明又は半透明にし、ズームアウトすれば全体を見渡せるほうがよいと私は思っているが、美術の専門家の中には戸惑う人もいるかもしれない。
(パネルのサイズ)
絵のサイズは現実世界(の1.5倍?)に合わせるのも一つの考え方だが、どうもそれでは見る方が大変な場合もある。私は絵の中の人物のサイズがアバターとバランスするサイズがよいと思っている。現実には非常に小さな絵が数多くある。これは盆栽とかミニチュアとか人間が興味を持つ対象ならいくらでも顔を近づけられるからだ。ところが仮想空間ではモニタ越しなので、大きくしちゃってもいいように思う。
一方、現実の美術館に飾られている巨大な絵、壁画、これは作品が人間の視野の大部分を占めると、突然、頭の中の没入感スイッチが入る。これを仮想空間でも実現できればよいが、やろうとしてもHDモニターを越えられない。所詮、モニタの縦1080に収めなきゃ見れないので、実物大(の1.5倍?)にすると、展示空間との関係でデカすぎる場合もある。やはりそこに登場する中心人物とアバターをバランスさせる考え方で私はいいと思っている。
(テクスの解像度)
製作メモ(その2)で、説明パネルは512x512、スナップショットは512x256でもよいと書いたが、絵画は1024x1024は必須である。大きな横長の絵画は1024x1024を2枚にしてもよい。というのは、絵画は実世界では人はいくらでも近づける。筆のタッチまで確認しようとする。
画像をアップする際には、元の画像が例えば960x640 だと、アップしたら512x512に縮小してしまうので、あらかじめペイントソフトで1024x512に拡大しておいてからアップしないといけない。640をわざわざ1024まで拡大する必要はないが、720とかだったら1024に拡大した方がいいと思う。
その際、やはり製作メモ(その2)で書いたように png-24 の透明なしにする。どんな形式であろうとアップすれば JPEG 2000 に変換されるはずなのに、なぜpng-24でないといけないのか分かる人がいたら教えてください。
(照明)
例えば彫刻をフルブライトにすると訳が分からなくなるから、夜間のために光源を置くしかない。ただし仮想空間に置ける光源には限りがあり、太陽と月以外に6つまでである(たぶん視認範囲内で)。だから彫刻は光源が必要だが、絵画はフルブライトにするしかない。何もかも理想通りにはできない。
(Wiki画像)
WikiMedia(Wikipepediaの共有画像)やWikiArtのフリー画像を使えば、共有メディア(Web on a Prim)機能で表示したものをキュレーティングするだけで博物館ができる。日本人は印象派が好きだが、それよりも後の世代のミュシャ、ホドラー、クリムト、エゴン・シーレもたっぷり使える。
(YouTube)
またYouTubeを使えば音楽やダンスなどのパフォーミングアートですら展示できる。ただし。繰り返し表示してると音がうるさいので、Webを自動再生する距離だけ離すか、それともタッチしたら開始する方式にすればいいだろう。
例えば、http://www.youtube.com/watch?v=WabT1L-nN-E を例にすると、エンドレスにリピートする動画にするなら
https://www.youtube.com/embed/WabT1L-nN-E?autoplay=1&loop=1&playlist=WabT1L-nN-E
とする。playlistでWabT1L-nN-Eを再指定しているのは何かの間違いのように見えるが、そういう仕様らしい。YouTubeの複数再生の音楽がうるさい場合は、タッチで再生して一回きりの
https://www.youtube.com/embed/WabT1L-nN-E?rel=0
とすればよい。
(球体表示)
パネル展示ではないが、ついでに球体にテクスやYouTubeを表示する方法について製作メモ(その14)で言い忘れたことを補足する。
球面表示向けのコンテンツを見つけるのが大変。縦横比が1:2の「正距円筒図法」(Equirectangular projection/ Cylindrical Map)で描かれたものを見つけてこなけれないけない。ところがYouTubeではご親切にも正射図法(orthographic projection)やモルデワイズ図法(Mollweide projection)でアップされていることが多くて球面に貼れない。正距円筒図法かどうかを見分けるのは、単にきっちり1:2になっているかを確かめればよい。
静止画であれば地球だけでなく他の惑星も手に入る。
火星:https://marsoweb.nas.nasa.gov/globalData/
木星:http://www.sci-news.com/astronomy/science-global-maps-jupiter-03337.html
土星:https://www.jpl.nasa.gov/spaceimages/details.php?id=PIA07782
最近流行りの360度カメラ画像がこちら。これを内殻に貼るとVR体験みたいな感じにできる。
https://www.textures.com/browse/hdr-spheres/114552
(表示)
製作メモ(その2)で、絵画のタイトル等の表示はとりあえずフロートテキストでと書いたが、これには泣き所がいっぱいあって、第一に絵画を画面いっぱいに表示したら、フロートテキストはモニタの外で見えない。プリムを90度手前に倒してパネルにすると、絵画の中央にフロートテキストが表示されるので邪魔。
llInstantMessageを使う方法(周辺チャットに表示)は、なぜか視認性の悪い茶色の文字しか選べないのが難点。
画期的に改善してくれそうなのがMasterpoppy AmatによるLSL-Markdown HUDだ。Giverタイプのうち、1:2を選ぶ。
SL内のEdu PortalにあるVW Teacher Training Towerにチュートリアルがあり、Take Copyできる。http://maps.secondlife.com/secondlife/The%20Science%20Circle/182/45/89
二つ目のSSがそのチュートリアル。Markdownのパネルをクリックすると、右下に「アバターに装着 よろしいですか?」と表示される。Yesを選ぶと、三つ目のSSのように、モニタの右側に説明用HUDが装着される。
この部分にYouTube動画を埋め込んだり、SLURLでTPしたりできる。これを利用して、パネル展示しているシムから関連する別のシムにTPし、元に戻るという、Inter-Region Navigation Systemにもなる。
製作メモ(その12)で言葉に頼りすぎず、なるべくイメージだけで伝わるようにと書いたが、そもそもイメージは口下手なので、どうしても文字で補う必要が出てくる。タイトル表示や説明表示のためにいちいち裏作業でテクスを作成するのは煩わしいが、Markdownならすべてインワールドで作成可能なのがありがたい。
(つづく)