Yan Lauria によって開始されたディスカッション

《その10》で「次回で最終回か」と書いてから《その14》になったが、あと3回ぐらい書く予定。

没入感

某研究所の可視化プロジェクトとしてアビス海文台を手がけていた頃、それを所内でデモする時になかなか手ごたえが得られない。その頃はまだSecond Lifeの悪評が残っていたのも一因と思われるが、「没入感」というのも重要な要素と思う。

自分で操作してこその没入感を、デモする相手にも感じてもらうためには、次のようなことまで考えないといけなかった。

  • 大画面・高解像度:人間の視野に占める映像の割合が高いほど没入感が高まるのは映画館でお馴染み。PCプロジェクタもHD版が普及したが、スクリーンもHD用でないと効果的でないらしく、HD用のスクリーンというのは高いらしい。また、55インチの4KディスプレイにSLとJOGを映し出したことがあるが、これはほんとに素晴らしい。有機ELの4Kが普及する時代が待ち遠しい。
  • インタラクティブ性:ただ受動的に見せるだけだと、映画の映像の方がよほど凄いが、これは長い時間を掛けてレンダリングしたものを再生したに過ぎないことを知らない人には、リアルタイムでレンダリングしていることの凄さに気付かない。デモする際の説明と同期させながら建物やアバターの回りをぐるりと回すなどのカメラワークが効果的。
  • 3D:3Dモデリングしてあるだけでは不十分。前にも書いたと思うが、WindLightでシェーダーの効果を調整して遠くがもやるようにする「空気遠近法」と、3DマウスのFlyCamモードでドローン搭載カメラのように常にゆったりとカメラを動かし続ける「動的立体視」も駆使する。
  • アバター:映像の中にアバターが登場するようにする。アクションを取らせればなお効果的だが、自分以外の協力者がいないとできない。
  • 画面の中の動き:動的立体視やアバターのアクションのほか、風にそよぐ木々とか、空を飛翔する鳥など画面の中に動きがあること。Hayabusa Design Nature(http://maps.secondlife.com/secondlife/Fighting%20Spirit/99/169/23)の木々(TreeとWind effectで検索すれば見つかる)や、ee Oh(http://maps.secondlife.com/secondlife/Maru/84/97/21)の空を自由に飛び回る鳥とかが、JOGでもできないものだろうか?
  • 環境音:視覚以外に聴覚も刺激する。今回はこの環境音について詳しく書きます。

 

環境音について

自然の景観を作れば、山なら鳥や虫の鳴き声、海なら波の音とカモメの声が必要だ。

SLでアップロードできるのはwave、PCM形式、44.1Mhz、ステレオ、10秒以内だという。詳しい方法は例えばこのサイトをどうぞ。

Aipiro.com

http://www.aipiro.com/lsltips/index13.htm

たぶんOpenSimも同じですよね?

(SLでは?)

有名なのは

Acoustic Alchemy/ ベンダー名SoundSceneHastur Pierterson作)

http://maps.secondlife.com/secondlife/SkyBeam/118/196/39

というシムがあるが、今現在はサーバーダウンで閉館中なので、公式サイト

https://soundscenes.com/catalog/atmo/

で音のプレビューが可能。そのままSL Marketplaceから購入できる。ひとつ89 L$。

これよりずっとお買い得なのがこちら(Arianneさん情報)。

+eChau+(えちゃう。Epo Chau作)

http://maps.secondlife.com/secondlife/Tokyo%20Sea/170/202/22(SL内の本店、音のプレビュー可能)

音源の品揃えは少ないが、セミ4種、コオロギ、マツムシ、波の音、カモメがあり、日本の海と山はこれで揃ってしまう。

もうひとつ、Arianne情報ですが、SL Marketplaceは日本語で検索できない。その時に便利なのが一つ目のSS。パトラッシュ神社で有名なzzzの竹小路という区画に立っている看板。

http://maps.secondlife.com/secondlife/zzz/216/217/22

この竹小路はベルギー人の杏さんが作っている日本庭園だが、そこに棲んでいるほ乳類、鳥類、昆虫、両生類、爬虫類、水生生物の一覧がこれ。日本語と英語で併記されているので、この英語でSL Marketplaceを検索すると、鳴き声を含むいろんな生物が検索できる。

Arianneさんに「虫の音を売ってる所を探してるんだけど。」って尋ねたら、この看板を教えてくれた。日本の生物をこれだけ調べたベルギー人も凄いが、それを即答するArianneさんも凄い!

(OpenSimなら?)

OpenSimだとどうするんだろう? 音データを最初のAipiro.comの方法で所定の形式のWAVデータに変換してアップロードするしかないんだろう。ロイヤリティフリーのWAVデータの有料サイトがある。

StoryBlocks (AudioBlocks)

https://www.audioblocks.com/royalty-free-audio/sound-effects

ここは音のプレビューがとても便利で探しやすいし、欲しい音源がよく見つかるが、値段的には微妙。

非商用なら無料(クリエイティブコモンズライセンス)のサイトがこちら。

freesound

https://freesound.org/browse/tags/

ここから希望のタグを選ぶ。これも音のプレビューができるので、これがいいかもしれない。

JOGのクリエータの皆さん、ほかにいいサイトをご存知でしたら、教えてください。

ちなみに、これらのサイトではザトウクジラの歌声でいいのがないので、アビスではYouTubeで見つけたものをメディア共有で流している。

 (つづく)

自然環境の再現テク~スカイ展示での空と海

孤立シムだと、スカイに天球と海面を置き、地上のデフォルトの背景とは違った雰囲気にすることができる。

天球・海面のサイズは直径1024mのメガプリムを使うのが理想だが、アバターが動き回れる範囲をシム中央部に限定しておけば、シムからはみ出さない直径256mでも十分に雰囲気が出せる。

最初のSSは、SLのJabara Land Atlantisにある「深海の旅」の天球と海(comet Morigiによる)で、直径は256m。

 (メガプリム)

この天球と海を作るのに、まずプリムのサイズが64m以下に制限されているSLでは、それを超えるプリムはメガプリム又はヒュージプリムと呼ばれ、SL Marketplaceで入手しないといけない。”Mega Prim”で検索できる。1024mサイズが入っていないパッケージが多いので注意のこと。1024mサイズ入りが明記されているのは以下のもの。

https://marketplace.secondlife.com/p/megaprims-mega-prims-true-megaprims-full-perm/10993929(29 L$)

https://marketplace.secondlife.com/p/Megaprims-box/371225(99 L$)

https://marketplace.secondlife.com/p/TMs-48k-Mega-Prim-Pack-15a/1231744(1 L$)

メガプリムの操作にはけっこうコツがいる。

まず、X, Y, Zサイズを増減させるとその途端に64mサイズに縮まってしまうので、それは弄らずに、ボックス/シリンダー/球体への切り替えと、パスカット、くぼみ、切り取りなどで形状を変更しなけらばならない。天球(球殻)の場合はパスカットとくぼみ(始点と終点)で切り取るようにし、海面(シリンダー)は最初から厚みの薄いメガプリムを選ぶか、切り取り(始点と終点)で厚みを減らすこと。

もうひとつ、メガプリムを操作するには、Rezしたらまずはメガプリムをファントムに設定し、ボックスや球であればまず中空にする。巨大なメガプリムになると、プリムのすぐ外に立っていてもプリム中心からの距離が離れすぎて編集モードになかなか切り替わらないことが起きるからだ。

JOGの場合は64mの制限はないが、256mのサイズ制限がかかってるかもしれないので、その場合はFumi先生に頼んでサイズ制限を外してもらえば、巨大プリムも通常のプリムと同じように編集可能。

(天球テクス)

まず天球の方だが、1プリムの球殻だと、テクスの解像度が足らない。全球で1024x1024の解像度にしかできない。そこでパスカットとくぼみの数値をいじって1/8の球殻を作り、それを4個組み合わせて空にする。宇宙空間で地平線から下も見せる場合は、8個組み合わせて全球にする。これによって8倍の解像度で表示することが可能となる。

星空は高解像度のものが無料で入手できる。

https://svs.gsfc.nasa.gov/3572

ダウンロードしたままの画像だと、ちょっと物足らないので、天の川が分かるようにペイントソフトで色調を変更する。(2つ目のSS)

青空については専用サイト”CGSKIES”があるが高解像度版は有料(20 USD~)である。

https://www.cgskies.com/skies.php

このページで空のタイプを選ぶとずらっと画像が出てくる。選択すると、3D Previewが可能(Adobe Flash Playerを有効にする必要がある)なので、これで感じが掴める。

解像度3000x1500までは無料だが、それを4096x2048に拡大して使ってもやはりパッとしないので、よく選んでから高解像度版を買うこと。Pay-Palでクレジットカードを登録しておく必要がある。

3目の画像がサンプルの一例。元の画像は地平線下が真っ黒になっているが、なぜか空の部分が4:1より縦長になっているので、ペイントソフトで地平線下をカットし、「縦横比を固定」のチェックを外してから4096x1024にリサイズする必要がある。

 (海面)

海面につかうテクスは”Sea seamless texture”で検索する。フリーのもある。

https://www.textures.com/browse/plain/2204

このテクスチャをゆっくりスクロールさせる。

default

{

    state_entry()

    {  

       llSetTextureAnim(ANIM_ON | SMOOTH | LOOP , ALL_SIDES, 1, 1, 1, 1, 0.005);  // 最後の0.005がスクロール速度

    }

}

 このアニメスクリプトでは、プリムの面に解像度1024x1024のテクスしか貼れない。せっかくシームレスなテクスなのだから2倍表示、3倍表示でいくらでも解像度が上げられると思ったらそれができない。

そこでまず直径256mの円盤でこのアニメスクリプトを走らせる。その外側に直径512mの円盤(当然解像度は粗くなる)でアニメスクリプトをより遅い速度で走らせる。すると面白いことに、近くでは波が動き、遠くでは大きなうねりがゆったりと動いているようにみえる。そこから先、天球との境界線までは水平線までのグラデーションを模した静止テクスを貼った円盤で埋める。

最初のSSをもう一度見てください。comet Morigiがこんなテクニックを使っているというのは今回は初めて理解できました。本当に凄い人です。

海面の表現についてはもっと凝ったことをしている人がいます。皆さんの方でぜひ試してみてください。

https://blog.natade.net/2015/12/13/secondlife-water-make/

 

キュレーション その2

「バーチャル博物館製作メモ(その3)」では自然環境をキュレーティングする方法を書いた。

一方、博物館として展示物をどうキュレーティングするか? 今回はその話。

(知識を関連付ける)

文章を書く場合、とにかく四苦八苦して文字を当てはめ、書けるところから書いていく。ある程度溜まってきたら、カット&ペーストで順序を代え、改行と段落と章立てし、番号を振る。ここでもうキュレーションの登場だ。ここでインド発祥の図書分類法のコロン分類法を紹介しよう。これには「PMEST」という5つのカテゴリがある。 

  • Pパーソナリティ(personality) (Who?) 
  • Mマター(matter or property)  (What?)
  • Eエナジー(energy)      (HowとWhy?)
  • S空間(space)        (Where)
  • T時間(time)         (When)

上に書き加えたように、5W1Hにもこじつけ可能だが少し違う。

パーソナリティPは人に限らない。「地球」、「エベレスト山」、「F-22ラプター」、「モナリザの微笑み」のような個性のある存在もあれば、扇風機、ジェット機や心臓のように、ある特質を持った存在をひとくくりにしたものもある。

マターMはパーソナリティを構成するパーツや材料や原料や性質やぞ属性だ。マテリアルとしている文献もある。心臓は人間というパーソナリティにとってのマターでもあるし、心臓をパーソナリティとすればその筋肉や弁がマターだ。したがってパーソナリティとマターの関係はいろいろに変化する。

エナジーE技能、活動、操作、過程、作用、性質なんだそうだ。空間Sと時間Tは分かりますね。

つまり、パーソナリティPに着目すると、マターM、エナジーE、空間S、時間TはそのパーソナリティPを説明するための知識(属性)ということになる。

効用1:知識をより完全にしたければ、PMESTを網羅するようにしよう(報告書は5W1Hを踏まえろというのにも通じる。)

ただこれだけでは終わらない。PMESTは注目されやすさに序列があって、PMESTの順に個性のある情報から汎用的で具体的でないものになってくる。ネット検索ではP(例えば「F-22ラプター」)で検索した方がM(例えば「ステルス戦闘機」)やT(例えば「量産機1号がロールアウトした1997年」)よりも絶対にヒットしやすい。

だからなんだっていうかというと、図書館ではたった一冊しかない本をどう分類して並べれば発見されやすいかが一番大事だ。すべての書物にはPもMもEもSもTも含まれているのは普通だが、Pに注目して並べてしまえ、百科事典の見出し語にするならパーソナリティにしろというもの。じゃ、歴史Tや地理Sや物理法則Eの本はどうするかというと、特定のPに特化されていないものは、ただでさえ発見されにくいので、図書館の一番目立つところに置けと言ってる。特定のパーソナリティに関する本は図書館の隅っこに置こうと、探したい人は隅から隅まで探し回れば、ちゃんと探し出せるだろうというもの。

効用2:どんな知識もPMESTが絡んでいる、それを並べる(百科事典の見出しにする)ならパーソナリティを主題に。

効用3:特定のパーソナリティに限らない横断的知識、抽象的概念は一番目立つ場所に

この3つだけでも博物館にある展示物のキュレーションのヒントになるが、今度は個々の展示物を互いに関連付けることを考えよう。そこでもPMESTは役に立つ。

T時間で関連付ければ歴史博物館になる(一つ目のSS。高度と年代を結びつけている)。

S空間で関連付ければ宇宙や深海でまとめたり、東洋と西洋に分けてその文化の違いを比較することができる。

は化学や物理の科学博物館の展示向きだろう。

PとMは全体と部分の関係だから、これはうまくキュレーションすればより包括的な展示になる。(二つ目のSS。地球システムが大気圏、水圏、生物圏、人間圏、地圏の5つのサブシステムからなる)

このようにあるカテゴリーに着目してキュレーションするというのは同じ次元同士で関連付ける場合が多いが、違う次元の間での関連付けも可能である。

まず、文章を書くという行為は基本的に上から下への1次元に配列するので、まずはPTESTで大きく章立てたあと、それぞれの章の中で関連を見つけて知識を構造化しがちである。

ここでホワイトボードやパワポになると関連付けのための空間がタテとヨコの2次元に増える。ただし、漫然とPTESTの違いに無頓着なまま2次元空間上に並べても何も関係を発見することはできない。全体と部分の関係をツリー図にしたり(PとM)、因果関係をフロー図にしたり(E)、二つの着目点で座標軸を設けて分布させたり(例えばSとT)、そういうことによって初めて個々の知識がより高次の知識へとキュレーションされていくのである。

現実世界や仮想空間の博物館の中ではそれが3次元になる。なかでもバーチャル博物館はコスト的にも空間的にも自由度が格段に大きいはずだ。

効用4:PMESTは個々の知識の繋がりを見つけるための座標軸になりうる

このように、PMESTとはこの世の中のあらゆる知識を体系化するためのものであるとともに、さらにそこから出発してより高次の知識へとキュレーションするための座標軸にもなるという。恐るべし、インド哲学!

 

コミュニティ フォーラム -> ひとり言 -> トレイシー島の位置

- Yan Lauria の投稿

昨日のトレイシー島ツアーで分かったのは、この島は元ホットスポット火山である。

プレート運動によってホットスポットの真上から外れたため、今は死火山である。ハワイ諸島~天皇海山列のように、いずれは海面下に沈んでしまう運命にある。

もしかしたらあのような巨大な空洞は元の火道を利用して掘られたのかもしれない。

で、世界にあるホットスポットは限られていて、以下の図のとおりである。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/57/Prominent_hotspots.png

このオレンジ色の点のどれかから、そう遠くないところにトレイシー島はある。

言葉にできないこと

ハインラインの言葉に「どういうわけか、物事は文章に書くと決着がつく」(宇宙に旅立つ時)というのがある。ところが、書く、又は、話そうとしても、頭に浮かんだことがすべてそのまま自動的に文字になって出てくるとは限らない。(私の友人に、まるで頭に浮かんだことを自動的に口にしてしまうとしか思えない厄介なヤツがいるが・・・)。

皆さんの中には、人間がものを考えるのは言葉を使って考えるものと思っている方はいないだろうか? たぶん半分無意識でひとり言のように言葉で自問自答していることが多いのかもしれない。しかし時として簡単には言葉にできない場合もある。私の場合はむしろ簡単に言葉にできない場合の方が多い。もやもやしている頭の中の何かにむりやり言葉に当てはめようと四苦八苦する。なんせ子供の頃は言語障害だとよくからかわれたぐらいだ。

今でもプレゼンする場合はひととおり話す内容を書いておく。そうしておけば、あとは書いた内容を無視して話せる。実は私も、今のように一生懸命文章を書いている状態、あるいは一時間後には人前で話さなければならない時は、頭の中でも書かなければ、話さなければ、というイメージトレーニングモードにスイッチが切り替わっているらしい。それでまあ人前でなんとか話せるようになる。

たぶん言語中枢の発達には個人差、性差もあるだろうし、普段から言語スイッチを入れっぱなしにしているかどうか、あるいは鍛え方の違いもあるのかもしれない。

だがそうだとしても、頭の中に浮かぶものは必ずしも文字で書けるとは限らないはずだ。すべて文字で書けるようなら、この世に音楽も美術もダンスも必要なくなるが実際にはそうではない。外界から頭に入ってくる情報も、言葉より映像の方が早いという。広告でもプレゼンでもアピールするにはビジュアルにしなきゃいけないのもそのせいなんだろう。

言語を不自由なく使えるようになるまでに多くの時間と訓練が必要だったように、絵画も音楽演奏も大変な訓練がいる。そうやって訓練を積んだ人には絵も音楽も言語と同じように頭の中で扱えるようになるのだろうか?

そう考えた場合、仮想空間をデザインしたりキュレーティングしようとするなら、言語ではなくイメージ(「印象」の意味ではなく「映像」の意味)で表現しようとするスイッチを入れておくことが必要だろう。

(イメージの文法)

人間は言葉を覚えるのは生まれたあとだ。だから言語は国によって異なる。しかし目に見えるイメージを処理する能力は遅くとも生まれて早いうちに頭の中に配線されてしまうらしい。だからといって映像はカメラのようにそのまま頭の中に蓄えられるわけではない。

今、目の前に皆さんの部屋が見えている。そこで目をつぶってみよう。そこで部屋の中の様子を思い描こうとしてみる。普段から見慣れているはずの風景だか、ちっとも思い描けない。記憶に頼ってあそこが本棚、こっちが窓、それから時計があって・・・と考えなければならない。そこで目を開けてみる。これはいつもの自分の部屋だということが一瞬で分かる。

これは不思議だ。頭が悪いんだろうか? 町を散歩する。新しい散歩コースを選ぶ。一度通ったことのある場所に来れば一度見た景色だと思い出す。ところがいつもとは逆向きに歩くと見覚えのない景色に見えて戸惑うことがある。どうも、人間がイメージを記憶する時はある種の変換を行って記憶していることが関係しているらしい。

言葉にも文法があるように、イメージにも文法がある。垂直と水平が好きであり、そこからのずれると違和感を感じる。斜めから見たビルは映像的には平行四辺形や台形の集合に見えるはずだが、ちゃんと直方体として記憶している。遠方の物と近くの物は、見かけの大きさは違っても、本来の大きさとして認識できる。真昼間の景色と夕暮れ時の景色、雨の日、雪化粧の景色で見え方が違うはずだが同じ街や風景であることが分かる。つまり人間は3Dモデリングしたりマッピングした情報を記憶に蓄えているのかもしれない。

普通のビルは目に見える2面から裏側も想像できてしまうからなのか、それほど反対側を見たいとは思わないが、変わった建物だとどうしても反対側を見たくなってしまう。男なら女の子がミニスカートをはいて立っていれば、その見えない領域をどうしても見たくなってしまう。ところがロングスカートだとそれほどは思わないし、自動車の底面をどうしても見たいとは思わないのは、イメージを3Dモデリングして記憶に蓄えるうえで重要でないと思うからだろうか?

色には鋭敏に反応する。特に赤や黄色には敏感である。しかも感情に影響を及ぼす。形状を知覚するよりも色を知覚する方がだんぜん早いらしい。

ここでイメージを四角いフレームで切り取ってみよう。額縁もテレビも窓から見る景色も、垂直に立った四角いフレームで切り取られている。ポロックの絵は床に寝かせたキャンパスにペンキを垂らして描いているくせに、飾るときは垂直に立てる。地形の3Dモデルを床に置けばジオラマだが、壁に飾ればアートになる。それはさておき・・・、

フレームで切り取る場合、切り捉えた映像のバランスが悪いと気持ちが悪い。左右のバランスがよければいいとは限らない。対象物が左右に散らばっているとか、前面の人物だけでなく背景にも見るべきものがあった場合、それらの重心位置が中央にあると安心するようだ。これは人間の視覚が眼球運動でスキャンすることで得られており、その間、頭自体は眼球運動する対象群の平均位置に向こうとするのと関係ありそうだ。上下にはめちゃめちゃ敏感であり、横倒しやさかさまに見るのを極度に嫌がる。もし人類が自由落下状態で進化したら、どのような絵を描くようになるだろうか?

もうひとつ、イメージに対する感性には人によって異なる傾向がある。例えば製作メモ(その3)にも書いたが、日本庭園と西洋式庭園の違いがその典型だ。これは人間の本性に関係があるようで、米国の政治がリベラルと保守にきれいに分かれていることにも関係しているかもしれない。これらは進化心理学や認知神経科学などで解明しようという取組みが盛んだが、ここではこれ以上突っ込まないことにして・・・。

(最初のSSはサンゴ礁のキュレーティングの例(ヤンとビアンカ)。二つ目はsanctuaryにあるIvory City

・・・・・

さて、こうしたイメージの文法から、皆さんの頭の中のイメージで表現しようとするスイッチが入ってくれればいいのだが、そもそも、イメージは言語とは異なるコミュニケーション手段なのだから、それを言語で書けるものだろうか? 「とにかく作ってみるからそれを見て」と言うしかないのではないだろうか?

 もしそれができたら、バーチャル博物館を作ることで、作者と訪問者の間に、なにか国境と時差を越え、時間と空間を越えたコミュニケーションが生まれるかもしれない。言語だけに頼らないでどこまで表現できるか、それに挑戦できるのが仮想空間の醍醐味と思う。