> 私たちが古い社寺を目の前にして、古代を見ていると思っていても、それは江戸時代の建築を見ていることが多いのです。それらからじっさいの古代を想像することは、かなり困難な作業となります。
再現しようとする出雲大社は地面に穴を掘り、柱の根本をそこに埋める、掘っ立て柱によるものです。問題は柱が腐る。伊勢神宮はそのために20年ごとに建て替えをします。
しかし巨大建築となると、そうそう頻繁に建て替えもできませんので、耐久性を確保しなければなりません。掘っ立て柱に耐久性を持たせる工夫は、木製電柱にあります。
木は乾いた状態や水中では腐りません。問題は水と空気のあるところ、根本の部分です。昔から寺院や、現在の木造建築は地面に接する部分に礎石やコンクリートの基礎を置き、それを避けています。
掘っ立て柱である木製電柱では、地中に埋める所から地表に出る部分数十センチまでをクレオソートなどの防腐剤を含浸し、あと柱頭に金属キャップを被せます。木口から雨水が浸透するのを防ぐためです。この木口を塞ぐキャップをデザイン化したものが擬宝珠(ギボシ)となります。
表に出て電柱を眺めてみました。もちろん木製の電柱など無く、すべてコンクリート製です。しかし、見上げると発見しました。コンクリート電柱であっても、柱頭には金属キャップが被せてあるではありませんか。じつはコンクリートも水には弱いのです。まして雨水はやや酸性ですから。地中に埋まる部分もたぶんなんらかの防水処理をしているはずです。
このように、材質は変わっても、また技術が変わっても、昔の技術の痕跡を発見することもできます。なので、神社の鳥居を観察してみました。いまどき地中に埋め込むものはありません。礎石の上に鳥居は立っています。白木のものもありますが、朱塗りのものもあります。(写真は伏見稲荷)

じつは出雲大社敷地内から発掘された鎌倉時代の柱の遺構は朱塗りだったそうです。彩りもありますが、防腐を意図したかもしれません。ただ、安易に入手できるベンガラ(酸化鉄)での防腐作用はあまりありません。水銀朱ならなら効果は高いでしょう。伊勢地方には辰砂が産出します。
朱塗りの鳥居で根本だけ黒く塗っているものがあります。これは何を意味するのでしょう。もっとも腐りやすい根本を護るための、別の防腐剤でしょうか?それとも金属の輪で補強しようとしたものでしょうか?
黒い防腐剤としては、アスファルトが考えられます。日本国内でも新潟県内などで天然アスファルトを産出します。石油の揮発成分が気化した残滓です。縄文時代に接着剤として使われていました。いっそのこと、基礎固めにも使えたかもしれませんね。